木曽曲物の特徴

木曽の曲物に入れたご飯は、何故これほどおいしいのか?
この地方ならではの秘密と特徴をお伝えします。

曲物は全国各地で作られており、秋田なら秋田杉、青森なら青森ヒバといったように、地域によって使う材料や作り方に違いがあります。ここ木曽の曲物には、他産地と異なる3つの特徴があります。

特徴その一 二種類の材料

通常曲物は1種類の木で作られていますが、木曽の曲物は2種類の木を組み合わせて作ります。
曲がっている側板は木曽ヒノキ、その側板にはめられる蓋板と底板は木曽サワラを使っています。

木曽サワラは吸水性・保湿力が高く、昔からおひつや寿司桶の材料として使われてきました。
ご飯をおいしく長持ちさせたいお弁当箱に、余分な水分を吸ってくれて、しかもしっとりと保ってくれる木曽サワラはうってつけの材料なのです。 しかしサワラはヒノキのように繊維が伸びず、曲げることができません。
そのため、曲げる側板にしなやかで丈夫な木曽ヒノキ、蓋板と底板に肉厚の木曽サワラが使われています。

古来より尾張藩の御用林調達地として守られてきた木曽地方は、寒冷地のために木の生長がとても遅く、木目の詰まった良材の産地として全国的に有名です。
そのため使用できる材料の選択肢の幅が広く、木の性質に合わせて適材を適所に使うこのような構造になったと云われています。
ご飯が傷みにくく、冷めてもおいしく保つことのできる木曽の曲物は、単なる工芸品としてではなく、実用品として機能的にも優れたお弁当箱であるといえます。


その二 側板の構造

木曽地方の曲物は、側板の構造が特殊です。
これは曲げる前の側板を数十枚まとめて横から見た写真ですが、上は薄く、下にいくほど厚くなっています。

他産地の曲物の側板はこのような勾配を付けた形状にはなっていません。
機械に通すことができなくなる上に製作の手間が増え、精度を出すのが大変だからです。
なぜわざわざこのような構造にしたのでしょう。それには大きな理由があります。

小判型のお弁当箱の構造を例に挙げてご説明します。
お弁当箱の身のパーツを上の写真のように赤い点線部分で切断した場合、その断面が下図となります。

勾配を付けて加工した側板と板を組み合わせて、このように器を形作っています。
上部の木口は厚く、底板がはまる下部は薄くなっています。蓋も同様の構造をしています。

側板が厚ければ厚いほど強度が高いと誤解されがちですが、木は曲げると外側の表面は引っ張られ、内側の表面は縮むため、曲面に対してある一定の厚みを越えたところから、器の強度は弱まっていきます。
丸い器の場合、外周と内周の差は2π×厚み分なので、木の厚みが増すほど円周差が大きくなり、割れや破損の原因となります。
そのため、内外の円周差によって生じる木への負担を、円周差の少ない薄い部分へ逃がしているのです。
これは、はまっている蓋板、底板の反りを軽減させたり、熱い物を入れたときに木が収縮する力を逃がすためのものでもあります。

また、側板に板をはめ込むときにも、蓋板と底板の木口部分に若干のテーパーをつけ、側板に対して楔を打ち込むようにはめることで、隙間の無い、丈夫で綺麗な仕上がりを実現しています。


このような構造は製作の手間がとてもかかりますが、強度の向上と軽量化に大きく貢献しています。


その三 スリ漆へのこだわり

曲物は本来、無塗装の白木地で使用されるものでした。
漆塗りのものがあっても、下の写真のような本塗りと呼ばれるしっかりとした塗りが一般的でした。
確かに美麗ではありますが、頑固な下地処理によって木目は消え、木の呼吸も止まってしまいます。

お弁当箱としての機能、耐久性、お手入れのし易さを追求してきた先人達は、スリ漆(拭き漆)を施す事にたどり着きました。
これは木地に下地処理をせずに、直に生漆を擦り込むように塗布する技法で、これによって木の呼吸を損なわずにメンテナンス性(洗いやすさ)や強度を向上させています。
また、漆には優れた抗菌作用があり、夏場などでも中に入れた食材が傷みにくいというメリットがあります。

本来は国産の漆が好ましいのですが、残念ながら現在では国産漆の生産量が少なく、価格が高騰しているため、中国から輸入した漆を国内の漆卸業者が時間をかけて丹念に精製し、職人に安定供給しています。 花野屋のお弁当箱にも、この高品質で信頼性の高い漆を使用しています。
天然塗料としては世界最高といわれる漆を贅沢に4回、木地に擦り込むように塗られた焦げ茶色に輝くお弁当箱には、良い物を少しでも安くお客様に届けたい、という木曽の職人の知恵とプライドが沢山詰まっています。